面倒なプライド

 またしても救急車を呼んだ。父が転倒し、玄関の格子戸に激突して後頭部を切ったのである。格子戸のガラスは激しく割れて三和土に散乱し、扉に残ったガラスも凶器のように尖ったままに残った。頭を切っているので出血がものすごく、玄関はガラスと血で、まるで事件が起きたかのようになっていた。
 ちょうど、デイサービスから母親が戻るところであったので、それを待って私用車で近くの外科に行くことも考えたが、脳梗塞の血液サラサラの薬を飲んでいることもあり、やはり救急車を呼ぶことにした。滅菌ガーゼとタオルで止血して、119通報して、リュックを背負い、スマホと財布と保険証、お薬手帳を入れ、ガラスの破片を箒で寄せた。母は足が不自由で介助が必要であり、玄関からしか家の中に入れないので、歩けるスペースを確保していると、サイレンが聞こえたので救急車を誘導した。救急車到着までの10分間の行動は我ながら早かったと思う。すでに夕暮れ時で暗くなっていた。
 応急手当を救急隊員に施してもらいながら、格子戸のレールに引っかかったガラスを撤去し(そうしないと玄関が施錠できない)、デイサービスの車を待つがいつもより遅れていた。救急隊の人に搬送先が分かれば後から車で追いかけるといったが、同乗しないと受け付けてくれない病院も多いらしい。そうこうしているとデイサービスの車が着いて、母をなんとか居間の椅子に座らせ、現状を素早く説明したが、あまり理解していないようだった。「何時に戻れるかわからない」といって玄関の鍵を閉め(ガラスはバキバキに割れているが柵は残っているので防犯はなんとかなった)、勝手口から出て施錠し、救急車に乗り込むと、搬送先の病院が決まった。ガラスと血だらけの玄関はそのままにして出発し、病院で頭の怪我を縫ってもらった。幸い頭蓋骨にはひびは入っていなかった。ガラスの破片が突き刺さって後頭部が切れたようである。
 あとから状況を父に聞いても、現状と合わない。「靴下が滑った」の一点張りであるが、横着して靴を履こうとしてバランスを崩しガラスの格子に激突したとしか思えない。当日の午前中、かかりつけ病院から帰る時も横着して靴を履こうとしたので注意したばかりである。靴もちゃんと履かないので履かせ直した。ガラスの割れ方も本人の話と一致しないが、決して認めないし、耳が遠いので自分の主張しかしない。面倒なので聞くのも途中からやめた。
 救急病院からの帰宅後、血だらけの服のまま、父を座らせ、とりあえず先に、暗い中、玄関のガラスを拾い、枠の割れたガラスを取り外し、血痕をふき取り、ガラスの代わりにビニールを貼った。
 年を取ると変なプライドがあって自分の過ちを認めず、まわりが迷惑することが多い。この変なプライドこそ「老害」と思うのだがどうだろう?

コメント

タイトルとURLをコピーしました