主なしとて

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 昨日、百合の花の話を書いたが、今日は紫陽花の話である。
 隣組に空き家がある。以前は老夫婦が住んでいた。私が知っていた頃は近所のおばちゃんという感じで、辛口な方だったが、いろいろ隣組のことに尽力されていた。
 家の前を通ると、玄関も庭も雑草が生え、郵便受けには雨に濡れた広告が刺さったままになっていた。ときどき誰かが来ているようで、外回りについては掃除され、広告や伸びすぎた雑草がなくなっている。しかし、玄関の扉やガラス窓は曇って薄汚れているから、中に入っての片づけはやっていないように思える。
 外回りの清掃が行われた後でも、家の前を通ると人が住んでいないというのがよくわかる。家に精気がないのである。閉めっぱなしの家は空気が通らないこともあって重たく見えるし、玄関前のポーチには人が通った形跡がない。
 人が住まなくなった家は寂しげである。それでも玄関脇にある大きな紫陽花の木が、今年は赤紫の花を咲かせていた。普段は見えにくい場所だが、塀を超えていくつか花が出ていたので、「咲いたんだなあ」と家の前の道を歩きながら見ていた。
 主なしとて、時期は忘れそ、というところだろうか。まもなくしたら、また清掃人がやってきて花を刈るだろう。それまで、見事に咲いたことを見てほしいと塀から顔を出しているのかもしれない。

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